【SKALD日本語化プレイ】PCOTで翻訳しつつ遊ぶスカルド日誌
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◆薬師の庵


森の深く、巨木に抱えられたように建っている、石組みの上に藁葺の屋根の家がある。
人里離れた場所で民間療法の薬を煎じている古の魔女の棲家にふさわしい外観だ。
小屋は薄暗く、室内には様々な乾燥植物が飾られている。石で組まれた暖炉に火が赤々と燃えている。空気はラベンダー、タイム、セージなどのハーブ、土、鉱物、化学薬品、さらになんらかの腐敗臭が複雑に混じりあい、重い。
ひとりの老婆が揺りかごの傍らに座り、銀髪を肩にばらばらに絡ませている。老婆は揺りかごを前後に揺らしながら、鼻歌を歌い、その風化した唇に笑みが浮かぶ。
「あなたがマザーカタック?ハンナに言われて来たんだ」
「確かにそうだ。何か用かね、坊や?」
その女は、灰色の瞳でこちらを見上げてきた。奇妙なクーという鳴き声がベビーベッドから漏れる。どこかおかしい。中を覗こうとするが、老婆が身をよじって視界を遮る。
私は、キャンプでの疫病の発生について説明した。
ぼんやりと傍らのゆりかごを揺らしながら、老婆は話を聞き、かすかにくすくす笑う。
「ホリンの人たちは、親切なカタック婆さんを頼りにしたのね?おや、ハンナの小さなアリンまで病気に?ここにいる私の小さな子豚ちゃんみたいに可愛い子なのに」
彼女は、ベビーベッドの毛布をやさしくたたく。そこから聞こえる奇妙な、笛のような音は、子供の声には全く似ていない。
「もちろん手伝うわ。心配はいらないよ」老婆は含み笑いをしながら言う。
「お腹の痛みをなくすには、古(いにしえ)の魔法が必要なのさ。大地の魔法よ」
彼女は、薬の材料に、この近くの腐った沼の向こうにある洞窟で「鱗を持つもの」の、「まだ生まれない子」を採ってくる必要があるという。
「さあ行きなさい、私の赤ちゃんは眠りたいんだ」
バレバレだと思うが、今回のタイトルは不可能犯罪の帝王カーター・ディクスン(ディクスン・カー)の最も有名な短編ミステリ『妖魔の森の家』からいただいた。スカルドは雰囲気重視のダークな作品なので、主人公にブツクサ愚痴を言わせたり、おちゃらけた文章やパロディを入れる余裕がなかったが、そろそろ最終回ということで、無駄話のネタをちょろっと導入したのをお許し願いたい。
今回元ネタの原題を改めて調べると『The House in Goblin Wood 』で驚いた。なんと「ゴブリン森の家」だったのだ。これが最初に訳されたころはGoblinをゴブリンと訳しても通じなかったろうからなぁ。それに作品の雰囲気的には「妖魔」のほうが似合っている(ゴブリンを単なる序盤の雑魚敵と感じてしまう現代日本人としては)。
◆ドクトカゲの洞窟
ツンと鼻を突く淀んだ臭気。有毒なガスを吹き出している沼に渡された朽ちかけた橋を慎重に進む。
湿地奥地にぽっかりと口を開いた洞窟を見つけた。中から肉の腐ったような臭気が漏れている。


洞窟を入ると、すぐに巨大なトカゲの化け物に囲まれる。
なんとか倒して周りを見ると、ここは大きなホールになっていて、腐った肉片がうず高く積まれている。足跡の数と折れた骨の量から判断するに、この場所を共同の餌場として利用しているようだ。(どうもそれを利用した罠を仕掛けられるようなのだが?、強引に通ってしまった)
洞窟を奥に進むとまた広いホールがある。特に湿度が高い。群がる毒トカゲを殲滅した後に床を見ると、木の枝などで作られた巣のような構造物が並んでいる。中にいくつも細長い形の卵が並んでいる。ここは爬虫類の孵化場らしい。
「まだ生まれない子」とはこれのことだろう。
◆悪魔の赤ちゃん
「おお、見て、この美しい卵を!」
老婆は優しくなでる。彼女は大きな卵を割り、うごめく中身を大釜に放り込む。湯気が立ち始め、混合物は濃い深紅色に変わる。老婆は混合物をガラス瓶に注ぎ込む。
「これでいいだろう。パンをこれに浸して、内臓のあらゆる汚れを洗い流すのだ」
彼女は瓶を手渡し、疲れたようにどさりと椅子に崩れ落ちる。かたわらの揺りかごがわずかに揺れ、低い唸り声が漏れ出す。
老婆は微笑む。「まあ、なんて可愛い欲張りな子豚ちゃん!信じられる?ほんの数日前に森で見つけたのよ。かわいそうなこの子は飢えていたの」
「あなたが見つけた?森で?」
「これで私も本当に母親。これまで私が助けてきた女たちと一緒ね・・・」
人間とは思えない叫び声がベビーベッドから漏れる。毛布が膨らみ、まるで赤ん坊よりもずっと大きな何かが動き回っているかのようだ。
私はゆりかごに強引に近づいた。
「だめ! この子は私のものよ!」老婆は飛び上がり、ゆりかごの前に立ちはだかる。
「聞いてください。あれは子供じゃない!」
「彼はただの赤ん坊なの!お願い、もうすでにたくさん失ったわ。もう誰も失いたくない・・・」
「すまない!」
毛布を剥ぎ取ると、そこには人外の、歯と目と、触手のようなものでできた蠢く塊がいる。その目は瞬きもせずにこちらを見つめている。
「忌まわしきもの!」 ドリイナがショックを受けて呟く。
それはおそろしいスピードで顔に食らいつこうと飛びついてくる。しばらく格闘が続くが、それを壁に叩きつけた。
忌まわしいものの叫び声が老婆の叫び声と混ざり合った。それは煙突をよじ登り、森の中へと素早く逃げていく。
「なんてことをしてくれたんだ!」老婆はひざまずき、顔を両手で覆う。涙が頬を伝っている。突然、彼女は初めて気づいたようにこちらを見た。
「あなたがやったの!!私の息子を私から奪ったの!」
このクエスト自体は「薬がいる」⇒「森の魔女に薬をもらいに」⇒「必要材料をとってくる」⇒「薬完成」という、テンプレ中のテンプレのしょーもない「お使い」にすぎない。だが、クエストを面白くするのはお使いテンプレかどうかじゃなくて、そこにどんな独自演出を入れ、ディテールで雰囲気を盛り上げ、どんな風に語るかであろう。
僕はこのエピソードがお気に入りである。やっていてとても怖くて、面白かった。ゆりかごの中が気になって仕方なかった。この描写はクエストには直接関係ないのにこのクエストの質と厚みを何倍にも増した。怪談やホラーをCRPGで物語るとはこういうことなんだろうと思う。
そんなわけで、今回のクエストはあえて原文をそのまま抜粋しコピペしている(PCOTで翻訳すると日本語をコピペしてデータベースを作れるので便利)。もちろん省略や手直しをしてはいるが。
◆何かが森に
老婆の庵を出ると、苦い気持ちと申し訳ない気持ちが、ない混ざって胸がつまる。
だが、薬を一刻も早く届けねばならない。
突然、目の隅に影が見え、その場に立ち尽くす。振り返って見ると、それは消えている。
背後から紛れもないあの笛の音が聞こえた。
振り返るが、なにもいない。
しかし、疑う余地はない。マザーカタックの子供が我々を付け狙っているのだ。
森を出るまで何者かの咆哮が我々を追ってくるのが聞こえた。
このエピソードがすっかり気に入ったのだが、肝心の赤ん坊のグラフィックはない。まあこういうのは文章で読んだほうが雰囲気が出るのだが、ここでまたAIにお絵描きしてもらうことにしよう。アヴェルナムのときに世話になったBing Image Creatorによる。





なんかモンスターズ・インクかなんかみたいになってイメージが違う。イソギンチャクの真ん中に目と歯がついてるようなのを想像してたんだけど、プロンプトが練り足りないのか。
◆薬の効用
難民キャンプに戻り、ハンナの小屋に駆けつける。
ハンナは神に感謝の祈りを捧げ、我々が持ってきた薬を受け取る。
そして悪臭のする液体に浸したパンの切れ端を、慎重に子供に与えた。子供は味に顔をしかめるが、やがて苦しそうな顔が穏やかに変わっていく。老婆の薬の効き目は確かだった。
ハンナは感謝して微笑む。あとは隔離施設に薬を持っていくだけだ。
ハンナの依頼、薬の材料(トカゲの子)、老婆の赤ちゃんと、このクエストは親子関係のモチーフで貫かれている。結果はそれぞれ大きく違っているが。(そういえば、同じ森のクモ洞窟のクエストも父と子だった)
このエピソードで怪奇大作戦『青い血の女』を思い出すのは僕だけではないと思う。老人の心を慰める、ゆりかごの中にいる「あれ」。
次回最終回(予定)
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